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梶原郁郎
〔キーワード〕微分を視る(微分の直観),微分の事例,⊿y(面積の増加分)の出どころ,⊿y/⊿x
本稿は,面積の微分を視る授業内容による教授学習過程の効果を報告している。本授業内容では「y=2x」「x2」「(x+1)(x+2)」を取り上げて,面積図を用いた次の思考手続きで微分の直観的理解の保障を指向している。(1)2xの面積図(縦2・横x)において⊿xxの延長線上にとる。(2)その場合,⊿y(面積の増加分)は面積図のどこになるか(⊿yの出どころ)。(3)⊿xを0に近づけていくと,⊿yは最終的にどこになるか。このように頭の中 で面積図を操作すれば,「x2」「(x+1)(x+2)」の場合も同様に,瞬間の増加率(微分)を視ることができる。本授業内容による実践の結果,「2x」「x2」の微分の数式操作はできるが意味理解が欠落している事前質問の状況は大きく改善され,事後質問において微分を直観できた生徒は,授業内容の事例と類似性の大きい「5x」と「x(x+2)」問題において正答者35名(95%)と37名(100%),類似性の小さい「πx2」問題において正答者36名(97%)であった。これらの事前事後質問の結果を含めて,本授業内容による教授学習過程の効果を本稿は報告している。

江川克弘
〔キーワード〕視写,音読,文体の変容,文章カ
複数の研究において,視写による学習は文章力を高めるのに有効な学習方法の1つであると論じられている。しかし,これらの研究においては,学習者が視写による学習を行うことによって,自分で文章を書く際の文体が変容するのかということについては明らかにされていない。
本研究では,文章力に課題のある1人の大学院生が視写を用いた学習方法(視写と音読をセットで行う)を10ヶ月間行うことによって文章力を高めることができるのかについて検証するとともに,書き手の文体の特徴を示す「1文の平均の長さ」と「説点の打ち方」が,自分で書く文章においてどのように変容するのかについて調査を行っている。結果,調査対象者の大学院生の文章力は高まっていた。また,「1文の長さの平均Jには変容が見られ,「読点の打ち方Jには部分的な変容が確認され,当該大学院生の文体の一部が変容していることが明らかとなった。さらに,インタビューの結果から,当該大学院生は視写を用いた学習方法を行うプロセスで文体に関して様々なことを学んでいることも分かった。
本研究の結果から,現在の教育現場に視写を用いた学習方法を導入することは有効であると考えられる。

理科授業におけるルール学習の促進・抑制要因に関する検討-小5「もののとけ方」の授業分析を通して-
蛯名正司,佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕もののとけ方,小学5年生,ルール学習,授業分析,アブダクション
本研究は,小学5年理科「もののとけ方」を対象に,授業におけるルール学習の成立条件を検討したものである。研究では,まず,教科杏の問題点を踏まえ,①複数事例の使用,②ルールの典型性が高い事例の優先的使用,③実験操作とルールとの関連づけという3つの方針に基づいた授業プランを作成し,溶解ルールの理解が促進されるかを事後評価課題により検討した(分析1)。さらに,分析lで得られた結果について,授業過程を分析することにより,授業者の教授活動およびその背僚にある授業者の教材解釈が児童の学習活動にいかなる影響を及ぼしたのかを検討した(分析2)。公立小学校5年生(66名)を対象に授業を実施した結果,授業プランの方針①の有効性は確認できたが,方針②及び③の有効性は確認できなかった。これらの結果について授業過程の分析を行ったところ,①の有効性は授業者による複数事例のカテゴリー化とそれによる推論を促す発問に負うところが大きいことが示唆された。他方,有効性が確認されなかった②③については,実験における定塁的な確認の不十分さや,仮説検証のための実験としての側面の弱さが影響を及ぽしていた可能性が示唆された。

栗山和広,吉田甫
〔キーワード〕割合概念,認知的障害,インフォーマルな知識,等全体
本研究の目的は, 全体の大きさは同一であるという割合の等全体についてのインフォーマルな知識を明らかにすることであった。参加者は, 割合を学習していない4年生が58名と5年生が57名, 割合を学習している6年生69名であった。等全体には2種類の問題があった。1つは, 基準量が同じである問題で, もう一つは, 割合の基準量が異なる問題であった。基準量が同じか異なる問題において, 比較量と割合の大きさを比較することが求められた。その結果, 基準量が同じか異なる問題のいずれにおいても比較量の大きさの判断の成績は高かった。しかし, 基準量が異なる問題において割合の大きさの判断の成績は低かった。このことから, 子どもはインフォーマルに等全体の比較量については理解していることが示唆された。

工藤与志文
〔キーワード〕理科実験,観察の理論負荷性,重さの保存性,誤ルール,小学生
本論文では,小3理科授業において,「塩は水にとけない」という事実誤認が生じた事例を報告する。当該授業では,重さの保存性に関するルール(出入りがなければ重さは変わらない)の理解を目標の一つとしていた。一連の理科実験では,発泡入浴剤を水にとかして,泡(気体)の発生による重さの減少を観察させた。さらに,塩を水にとかす実験で,とけても物の重さは変わらないことを観察させた。しかしながら一部の児童は,入浴剤がとけたので重さが減った,重さが変わらないのだから食塩は水にとけないと結論づけてしまった。これらの事実は「観察の理論負荷性」の観点から考察され,「とけると重さが減少する」という誤ルールを持った児童と授業者は互いに異なった観察行為を実践していた可能性が示された。

蛯名正司,宮田佳緒里
〔キーワード〕速さ・距離・時間の弁別,等速性の理解,単位時間あたりの距離,特別支援,小学6年生
本研究は,発達障害(ADHD)のある小学6年生男児を対象に実施した,速さの学習に関する実践報告である。対象児は,速さの公式を用いた課題解決は可能であったが,「速さの保存課題」では一定の速さで進む物体であっても「距離の短いほうが速い」という誤りを一貫して示した。そこで,第1回教授活動では,電車の模型を使用して,速さを「ノロノロ」,「スイスイ」,「ビュンビュン」と定性的に教示し,さらに比例関係を用いて速さ・時間・距離の弁別を促す活動を実施した。しかし,事後調査では,依然として速さ―距離の保存課題で不適切な反応が見られた。そこで,第2回教授活動では,速さの異なる電車模型を2台用いて,単位時間あたりの距離を計測したあと,速さを直接比較する活動を実施した。その結果,対象児の速さの捉え方が「距離の短い方が速い」から「距離の長い方が速い」に変容したことが示唆された。事後調査課題では,単位時間あたりの距離が等間隔であることを図で示された課題には解決できたが,速さ-距離の保存課題では依然として誤った反応を示した。以上の結果を踏まえて,本実践で実施した教授活動の有効性と限界について論じた。

田中瑛津子
〔キーワード〕授業導入時の工夫,目標の提示,認知と動機づけ,重要な情報への着目,日常場面との関連
本研究では,中学2年生に対する理科の授業場面において,導入時の具体的目標の提示が生徒の認知および動機づけに与える影響について検討した。特に,先行研究で十分扱われてこなかった「理解に焦点化した目標」の効果に焦点を当てた。5日間の講座に参加した99名(分析対象となったのは65名)を,物体の運動に関する実験結果を解説することを授業の目標として提示した実験目標群,実験を日常的な文脈に改変した日常目標群,具体的な目標を提示しない統制群に割り当てた。目標提示後は,授業の中で実験の結果の説明を全ての群に対して同様に行った。その結果,日常的な文脈の有無に関わらず,理解に焦点化した目標の提示により,授業への動機づけおよび重要情報のメモ量が増大することが示された。さらに,動機づけを媒介変数としたパス解析の結果から,重要情報のメモ量に対する目標提示の効果は,動機づけを介するプロセスと,動機づけを介さない直接的なプロセスにより生起することが示唆された。後者のプロセスは,重要な情報に着目しやすくする認知面への影響を反映していると考えられる。本研究により,理解に焦点化した目標提示が動機づけ側面と認知的側面の両方をサポートしうることが示唆された。

佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,仮説的判断,定義ルール,大学生
ルールが教えられても課題解決に適用できないというルール学習の困難さについては,多くの先行研究で指摘されているところである。これを本研究では,自身の直観的判断を留保しルールとその操作のみに従って暫定的に判断する「仮説的判断」の不十分さゆえに生じるという学習者の思考過程の問題として捉え,その可能性について検討した。具体的には,四角形の定義ルールによる未知図形(3頂点が一直線上に並んだ特異な四角形)の判断課題をとりあげ,大学生7名を対象に行った討論記録から参加者のルール適用過程について考察した。その結果,経験による反証がなされ得ない定義ルールの場合でも,参加者は,自身の直観的判断を保持するようにルール以外の知識を持ち出しルールによる判断を拒否していたこと,また,ルールによる判断を認めたのは,ルールに直接示されていない情報や自身の知識との整合性が確認されたときであったことが明らかになった。これらの結果から,学習者にとってルールに従った仮説的判断は困難であること,ルールの学習を促すには,ルールが正しいとしたらどのようなことがみられるか検証可能な命題を導出させることが重要になることが示唆された。

梶原郁郎
〔キーワード〕0の段のかけ算の式理解,1あたりの量×いくつ分,事実と事例,日常的知識と教科の知識
本稿は, 0の段のかけ算の授業内容(二時間構成)による学習援助の効果について, 事前事後質問の結果を踏まえて報告している。「0×2」「0×0」と「2×0」との相違の理解をも教育目標に含めて構想した本授業内容は, 「1あたりの量」の理解がかけ算の式(1あたりの量×いくつ分)理解の根幹となるという認識に基づいて, 1あたり「2」「3」「8」「0」のモノを身の回りから見つけさせる発問を土台としている。これは, 日常的知識であるそれらのモノ(事実)を「1あたりの量」(教科の知識)の事例に昇格させる思考を促す発問である。この発問を軸とする本授業内容は小学4年(32名)を対象に実践され, 一時間目の事前質問では「4×2」の文章問題に「2×4」と正答した児童は11名(35%), 二時間の事前質問では「2×0」「0×2」「0×0」の文章問題全てに正答した児童は3名(10%)であった。これらの数値が事後質問でどう変化したのかを示して, 本稿は, 本授業内容による学習援助の効果と課題を提示している。