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知久馬義朗
〔キーワード〕科学教育,言葉の操作,視点,生活者の体験,科学者の体験
科学の学習を援助する場合、第一に、重要で基本的な法則を教えようとすることが肝要である。第二に、言葉の意味も、言葉の操作を支える体験も、「科学者の視点」と「生活者の視点」で分類しなければならない。第三に、子どもたちに求める「言葉の操作」が、言葉の意味を「生活者の意味」から「科学者の意味」に転換し、法則を定立し、法則と事例、例外との関係を成立させ、さらには法則と法則を関係づけるのに適切な内容を持つことを、十分に吟味する必要がある。第四に、授業の冒頭では「生活者の視点に立った体験」を行い、その後「言葉の操作」を導入し、それを「科学者の視点に立った体験」が支え、三者の循環的な相互促進をはかることが大切である。工作法にもとづいて複数の教材開発ならびにそれらを用いた授業を行った結果、上記の四条件を充たすことが授業で子どもたちの学習を成功に導く可能性の高いことが、強く示唆された。

佐藤康司
〔キーワード〕関連づけ,認知的能動性尺度,受動的認知,問題解決
研究1では、学習者による知識の関連づけの成立を測定し、課題解決や興味に及ぼす影響について検討した。119人の大学生が水に対する期待の溶解度と海流について書かれた二つの教材文を読んだ後、教材文の理解と関連づけを測定する問題に回答した。学生の半数は二つの教材文に関する関連づけ情報を提示されたが、残りの半数は提示されなかった。その結果、外的な関連づけ操作は直接には課題解決を促進せず、関連づけの成立が課題解決を促進することが確認された。また、関連づけの成立に学習者の何らかの内的要因の関与が示唆された。研究2では、学習者における受動的な認知の傾向を測定する「認知的能動性尺度」の信頼性を検討するとともに、受動的認知の傾向が関連づけや問題解決を阻害するかを調査した。研究1と同じ対象者82人について、認知的能動性尺度の得点と関連づけの可否との関連を調べてみると、認知的能動性が低いほど関連づけが困難であることが見いだされた。また、認知的能動性が発展的な課題の解決に影響を与えることも確認された。従って、認知的能動性が「学力格差」の問題と密接に関わる可能性があると考えられた。

宇野忍,福山晶子
〔キーワード〕小学生,多動傾向,算数学習,学習環境づくり,応答的環境
本報告は、1997年4月から1998年3月までの1年間にわたる授業記録を基に、多動傾向にある小学2年生児童女児1名に対する援助の取り組みとその結果をまとめたものである。具体的には、対象児童の抱える困難さ(授業中に出歩く、整理整頓ができない、算数の足し算・引き算の学習と10の概念理解が十分でない)の改善を目標とし、学級文庫や工作コーナーの設置、教材・教具の選択など、学習環境の整備が、出歩き行動やかたづけ行動、算数学習の改善に効果をもったことが示され、その児童の得意な面、良い面を認め、それを生かした課題設定を行うなどの学習環境づくりのヒントが得られた。また、学習環境づくりの枠組みとして、O.K.ムーアの応答的環境の持つ5条件が有用であることが指摘された。

高垣マユミ,田爪宏二,清水誠
本研究は、小学校5年生理科「もののとけ方」の観察・実験を通した協同学習の話し合い場面を通して、溶解時の質量保存に関して子どもたちが保持する素朴な理論を、科学的な理論へと促進する教師の介入方略を考案し、その効果を実証的に検証することを目的とした。事前・事後テストの記述分析及び発話事例の解釈的分析を用いて教授効果を検討した結果、以下の点が明らかにされた。1)子どもの生成する予測・観察・実験から得られるデータ、データから導かれる理論とを結びつける教師のリヴォイシングは、自己を変化させる方向性のトランザクティブディスカッションを生成させる。2)子どもどうしで主張する理論間のズレや矛盾点を明確化した上で、より精緻化された理論に再公式化する教師のリヴォイシングは、他者を変化させる方向性のトランザクティブディスカッションを生成させる。1)2)のトランザクティブディスカッションの生成は、理論の協同構築を促進させる可能性が示唆された。

麻柄啓一,岡田いずみ
中学校の理科では、とつレンズで光を集めるとその光を発した物の像ができることが扱われているが、大学生であってもこのルールを把握している者が少ないことが先行研究からわかっている。教科書を検討すると、光源の位置の変化に伴って像のできる場所や大きさがどのように変化するかが強調されている。このような扱いによって、「像ができる」というルール自体が把握されにくくなっている可能性が考えられる。調査1では大学生を2群に分けて、グループ1に対しては像ができること自体を強調し、グループ2に対しては像のできる位置と大きさを強調した。事後の標的問題での正答率はグループ1の方が高かったが、その値自体は十分高いものではなかった。調査2では、さまざまな光源を用いた場合の光の道筋とスクリーンにできる像を描くことを被験者に求め、さらにルールも強調した。しかし標的問題での正答率は上昇しなかった。調査3では、調査2の被験者に対して、なぜこのルールを標的問題で用いなかったのかを質問した。その結果、彼らの誤解がいくつか明らかになった。これらの結果に対して、授業の改善の観点から考察を加えた。

進藤聡彦,麻柄啓一
言語教材は一般に「pならば(は)qだ」という命題の形で書くことができる。前件pを具体化した事例は代入例と呼ばれてきた。先に著者たちは命題の後件「qである」を具体化することによって別のタイプの事例を作ることができることを示し、これを象徴事例と名づけた。どのような条件を満たす象徴事例が命題の学習に有効であるかを明らかにすることは重要な仕事となる。本研究では明治時代に関するある陳述命題について3つの象徴事例を準備した。学習セッションでは大学生の3グループに象徴事例を1つずつ提示して、その後に事後テストを行った。この問題では多くの学習者が誤った認識に基づいて答えるため間違うことがすでに確認されているが、象徴事例を用いれば正解を出すことができる問題であった。われわれはさらに、象徴事例を参考にして答えたか否か、また参考にしなかった場合はそれはなぜかを質問した。その結果、何人かの学習者は象徴事例に関してわれわれの期待とは異なる解釈をしていることが明らかとなった。また別の何人かは提示された象徴事例を認知構造の中にうまく取り入れることができないので無視してしまうことが明らかとなった。逆に言うと、このような「無視」や「別解釈」が生じない象徴事例が有効であることが明らかとなった。第2実験では2つの象徴事例を同時に学習者に提示することの効果を検討した。その結果、この方法は学習者の誤った認識を修正するのに非常に有効であることが確認された。