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麻柄啓一,進藤聡彦
〔キーワード〕 操作,読解,誤認識,歴史学習,大学生
本研究では「徳川幕府は全国の大名から年貢を取っていた」という誤った認識 (麻柄,1993)を取り上げる。高校の教科書では, 例外として一定期間「上げ米 (大名がその石高の1%を徳川家に差し出す) 」が行われたことが記述されている。ここで, 「○○の期間には××が行われた 」 (命題a) に接したとき,これを「○○ 以外の期 間には××は行われなかった」という形(命題b)に論理変換できれば,先の誤りは修正される可能性がある。実験1では大学生62名を対象にこの関連を検討したところ, 年貢の行方を問う問題 (標的問題) での正答者は誤答者より, 命題の変換に優れている傾向が示唆された。実験2では大学生34名を対象に, 論理変換を援助することにより誤った認識の修正が図られるか否かを検討した。その結果, 援助が誤った認識の修正を促進する効果をもつことが確かめられた。知識表象を変形することは操作と呼ばれるが (工藤,2010),上記の論理変換も操作の1つであり,操作の成否が誤った認識の修正に関わることを示すものとなった。

作間慎一
〔キーワード〕 文学作品,謎解き読み,読解指導,『お手紙』,アスぺクトの転換
文学作品の理解は一般に困難である。文学作品の謎解き読みは,読者が矛盾や違和を抱く記述(謎)に作品理解の手がかりがあると考え,それらの合理的な解釈を試みることによって,すぐには気づくことのできない作品理解(アスぺクトの転換)を得させるものである。読者がおかしさを感じる記述がいくつかある『お手紙』を教材として,小学4年生にそれらの謎解き読みを促す授業を行ってみた。その結果,児童は本作品の主題を「思いやりの大切さ」と当初からとらえていたが,登場人物のいくつかの行動におかしいことがあると感じていた。そこで,そうした登場人物の行動の理由についての解釈を新たに求めたところ,児童から自発的に出された解釈の ほとんどが思いやりの枠組みによるものであった。今回の謎解き授業では, 当初の主題理解をさらに強めることになり,本作品の謎解き読みによるアスぺクトの転換が難しいことが示された。ただし, 授業者が「手紙のよさ」という枠組みでの謎の解釈を提示したことによって,一部の児童ではあるが,その解釈への転換の可能性を見ることができた。

知久馬義朗,井澤由利香
〔キーワード〕 言葉の操作,科学者の体験,生活者の体験,法則学習,数概念
<p> 様々な量を分類出来るためには,それ以前に量と結びついた数概念を形成する必要がある。そのためには, ①様々な性質を条件とした集合を複数作り, ②各集合を作る際の性質をすベて無視し ,量だけに着目して上位集合を作り, ③複数の上位集合間で量の異同判断が出来るようになることが必須である。①②は③の前提であるが, 本研究では,現在極めて不十分にしか配慮されていない①②の充足に焦点を当てたテキストを構成し,その妥当性を検討した。構成に当たっては,「仲間分け」「分け直し」「囲み分け」の概念形成を実現するための法則群の設定,及び言葉の操作,科学者の体験,生活者の体験の3者の設計とその有機的関連づけに特に留意した。入学直後の公立小1年生に13時間の授業を行い,種々の点で難度に差のある問題で構成された事後テスト,自発的な仮説検証的活動の発生,とりわけ発展性のあるそれの発生を基準に授業の効果を判定した。事前には簡単な仲間分け以外は一切できなかった子らが,事後テストでは全員が全問に完全正答(個数を条件とした囲み分けを含む。)した上で,発展性のある自発的活動も多く確認され,極めて早い段階での集合数の成立も確認され,本研究は完璧な成果を収めた。</p>

吉國秀人,赤沢潔
〔キーワード〕 特別支援教育,算数,足し算,課題配列,大きい位
本論文は,特別な支援を必要とする児童1名を対象にして,算数学習における2桁及び3桁の足し算学習を, 継続的に援助した授業の実践報告である。学習者は,実践開始当時は5年生であった。「かずの学習」における取り組みの中から,特に,2桁及び3桁の筆算による足し算の授業場面を抜粋して報告した。細谷(1969)が小学校算数の授業立案・展開検討で用いた視点を参考にして,実践から導かれる仮説的な要因として 1. 課題の型分け, 2. 教具と課題配列順序, 3. 個に応じた課題解決のための援助方略に注目し,考察を行った。お金に関する先行知識を有する学習者に対して,その既有知識にあうよう選択された教具(お金)が活用された。また,授業で取り上げた筆算課題は,"特殊な"タイプから"一般的な"タイプの順に配列されていた。さらに,筆算の計算は,初めに大きい位を計算し,その後で小さい位を計算するよう指導した。このような「大きい位優先主義」に即した指導は,2桁及び3桁の足し算を独力で計算可能にし得る指導方法だったことが明らかにされた。「3 位数で一の位が繰り上がると十の位も繰り上がる足し算」のタイプの学習が課題として残された。

大道一弘
〔キーワード〕等周長問題,高さ判断,視覚的判断,大学生
本論文の目的は,等周長問題(長方形の底辺を固定し,各辺の長さを同じに保ちつつ平行四辺形に変形した場合に,面積がどうなるかを問う課題)の解決における高さ判断の役割について検討することであった。従来,等周長問題においては,多くの者に誤りが見られることが指摘されてきたものの,高さ判断には問題がないものと仮定されてきた。しかし,大学生49名を対象とした3つの課題からなる実験の結果,(1)実験参加者全体の57%に高さ判断の誤りが見られること,(2)そのような者には視覚的判断といった直感的な判断を行っている者が多いこと,(3)面積,高さの両方に誤答した者でも,54%は補助線による高さの明確化によって面積判断も改善されること,(4)そのような者の31%は,補助線のない元の問題では面積,高さともに誤った判断に戻ってしまうことが示された。これらの結果から,等周長問題における高さ判断は多くの参加者にとって容易ではなく,高さ判断の誤りは等周長問題の誤りをもたらす要因の1つであると考察された。

尾之上高哉,丸野俊一
〔キーワード〕学び合い,対話,授業,共感性,教授・学習過程
本研究の目的は,学び合う授業の中で「共感性の重要性や意味(=共感性の価値)」を学ぶ体験を通して,共感性得点に変化がみられるか否かを明らかにすることであった。1学期から2学期の授業の中で「学び合う授業」が展開されるようになったことが示された学級の児童を対象に分析を行った。まず,児童は,学び合う授業の中で「共感性の価値」を学び得るのかを検討した結果,(1)インタビューの中で,共感性の価値に言及する内容を自発的に語るようになっていること,(2)授業のやりとりの中で,自発的に共感的振る舞いに取り組むようになっていること,(3)「共感性の価値」の実感の程度を調べる質問紙得点が,1,2学期の間に有意に増加していること,の3点から,児童は学び合う授業の中で「共感性の価値」を学び得ることが示された。次に,授業の中で体験した「共感性の価値」の学びが,共感性の高まりに繋がっているかを検討した結果,1学期から2学期にかけて「共感性の価値」得点が増加した児童の多くは,「共感性」得点にも高まりが示されることが確認された。本研究の結果からは,学び合う授業が,児童の共感性育成の場として機能し得ることが示唆された。

尾之上高哉,丸野俊一
〔キーワード〕話し合い,学び合い,発言行動,教師の働きかけ,教授・学習過程
本研究の目的は,学び合う授業の中で,教師がどのような働きかけを実践していくことが,「児童が積極的に発言できるようになる」という変化を引き起こすことに繋がっていくのか,を明らかにすることであった。学び合う授業に熟練した教師が担任となった学級の児童のうち,「1学期当初は,発言することに強く抵抗し,ほとんど発言できなかったが,2学期後半頃から自発的に発言できるようになった」T児に注目し,T児の変化を生み出した教師の働きかけを,教師・T児・観察者の3つの視点から総合的に分析した。その結果,児童の積極的な発言行動を促すためには,次のような教師の働きかけが重要であることが示唆された。それは,児童に可能な範囲で発言を試みさせる過程で,①クラスの児童達が,発言児に対して共感的に関われるようになるための働きかけを行うことにより,児童達が「自分の発言に対して,周囲のみんなは共感的に関わってくれる」と認識できるようにすること,②発言することの意味を明示的にも潜在的にも伝える働きかけを行うことにより,児童達が「自分が発言することは,ここでの学びを深めていくために役に立つ」と認識できるようにすること,である。

工藤与志文,小石川秀一
〔キーワード〕理科授業,電流の学習,認識のずれ,小学生,教師
本論文は,小5「電流が生み出す力」の授業実践における子どもの認識とそれに関する教師の認識とのずれを示す事例の報告である。これらの事例では,事実認識
とコトバの意味に関して,教師の想定していた子どもの認識と実際の子どもの認識が大きく食い違っていた。4つの事例の分析を経て,以下の点が論じられた。 ①事例で示された認識のずれは,教師と子どものやりとりの中で初めて顕在化するような微妙なものであったが,授業目標の実現に大きな影響を与えるもので
あった。②子どもの思考は具体的なイメージにしばられる傾向があり,これが認識のずれをもたらす要因の一つであった。また,コトバの操作だけでイメージを 変化させるのは困難であった。③子どもたちに抽象概念を理解させるために,具体的な現象に置き換えて教えることは重要だが,それだけでは,個別の現象の学
習にとどまってしまう可能性が高いことが示された。この点を克服するためには,抽象概念と個別的現象を結びつけるはたらきをもつ経験が重要である。