コンテンツへスキップ

小林寛子
〔キーワード〕説明,教授法,概念変化,誤概念,大気圧
これまでに,学習者の誤概念を修正することを目的として,教授者が学習者に提示する事例の種類やその提示順を検討して,教授法を提案する試みが様々に行われてきた。しかし,こうした教授の後には,学習者自身が改めて,教えられた内容を確認し,理解を構築していくことの必要性も指摘されている。そこで,本研究では,こうした説明活動の導入が概念変化に及ぼす効果について,実証的に検討することを目的とした。具体的には,まず,「真空は物を吸い寄せる力を持つ」という誤概念が見られる「大気圧」について,106名の大学生を対象に授業を行った。その後,対象者を,教えられた内容について自分で説明し直す活動を行わせる群(説明群:52名)と,教師の説明を書き写させる群(書写群:54名)にランダムに割り当てて,両群の学習効果を比較した。結果,書写群よりも説明群の学習者の方が,学習した内容を後続の問題を解く手がかりとして用いやすくなることが明らかとなった。以上の知見から,学習者の誤概念を修正するために,概念変化に必要な教授を行った後に,学習者が教えられた内容を自分の言葉で説明し直す活動を導入することの有用性が示唆された。

岡田いずみ,麻柄啓一
〔キーワード〕公式理解,操作,小中学生
麻柄(2009)は,問題に数値が記されていない場合に公式を用いることができない小学5,6年生が多いことを面積公式に即して明らかにした。これは公式の変数間の関係に着目して答の大小を導くこと(操作)ができない者が多いことを意味する。本研究は,①操作ができない学習者がどの程度いるかを問題の種類と学年を拡張して調査し,②操作ができない学習者に対して,それを可能にするように援助してその効果を検討した。研究では小5(32名)と中1(67名)を対象に,面積公式と代数の式について操作の成否を調査した結果,小中学生ともに正答率は低かった。そこで研究Ⅱでは事例研究として中2(2名)を対象に,任意の数値を代入して求めた答えと操作の結果が同じになることを手がかりとした介入を行ったが,学習者は操作を行えるようにならなかった。原因として学習者の実感や納得が伴わなかった可能性が考えられた。研究Ⅲでは中2(31名)を対象に,操作のプロセスや結果が妥当であることを実体的に確認できるように工夫した介入を行った。その結果,操作が可能となった者が大幅に増加し,この方法が効果的なことが示唆された。

早田武四郎
〔キーワード〕familiarity(既知感)のなかの「情的側面」,教科書ユニット・タイトルの「イメージ」調査,聴取によるTFテスト,familiarityのなかのknowledge(知識)とcloseness(親近性),大学教養英語教育
Familiarityのなかの「情的側面」を確認し、日本の大学(英語)教科書20のユニット・タイトルのイメージを測定するために、10の形容詞対、7件法のアンケート調査が行われた。
調査協力者は3つの題材をそれぞれ2回聞いた後、6問と16問のTFテストに答えた(2分、5分、5分)。次に、調査協力者は三つの題材についてテストまでに有する知識を調査する7件法のアンケートに回答した。特に、因子分析で発見された情的測面の因子は「親近性 (closeness)」と命名され、既知感 (familiarity)のなかの下位概念の一つとして位置づけられた。第1位のタイトル、最下位のタイトル、第3位のタイトルは、「高親近タイトル」、「低親近タイトル」並びに「トレーニング用タイトル」として採用された。
結果は高親近タイトルが低親近タイトルに対して統計的に有意に優れていること、タイトルの親近性の学力(第1回TOEIC Half テスト得点)に対する主効果、タイトルの親近性と学力(同左)間には交互作用はなく、高親近タイトルのTFテスト得点とテスト前知識の間には相関がないことを示した。

小口祐一
〔キーワード〕標本比率,散らばり,判断,変換操作シミュレーション
標本比率の散らばりを比較する問題は,大数の法則を適用することによって解決可能である。しかし,標本の大きさに差があるにも関わらず,「散らばりは同じ」という誤判断が多くみられる。標本の大きさを考慮せず,大数の法則を適用しない傾向は,「標本の大きさの無視」と呼ばれている。この傾向は,問題解決に適用できる形にルール命題を変換操作できないことが影響を与えていると想定した。本研究では,大数の法則の学習をしている大学生を対象に,大数の法則の裏操作の正しさを確認させるシミュレーションによって,標本比率の散らばり判断が改善されるかを検証した。その結果,標本比率の散らばりを比較する問題に対して,事前から事後にかけて適切判断に変容した対象者が多いことが示された。また,大数の法則の原命題または裏命題を判断理由にあげている対象者が著しく増加した。このことから,ルール命題の変換操作の正しさを確認する変換操作シミュレーションは,学習者の標本比率の散らばりに関する適切判断を促進するとの示唆を得た。

佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,属性ルール,カテゴリールール,推論,種子植物のルール学習
本研究は,種子植物の生殖ルール「花が咲く植物にはタネができる」の適用を促す教授法の効果について検討を行うものである。この生殖ルールはカテゴリーの包含関係を表すカテゴリールールとして捉えられるものであるが,学習者にとってルール命題の自発的な変形操作や具体的な予測の導出が困難であることが先行研究により示唆されてきた。そこで本研究では,生殖ルールに加えて「花の形が似ていれば,実やタネの形も似ている」という形ルールを提示することを提案した。形ルールは具体的な花の形と実・タネの形という属性の連合関係を表す属性ルールとして捉えられ,先のような生殖ルールによる処理の困難さを克服させることが期待された。大学生70名を対象に検討を行った結果,形ルールの追加提示は,花からタネ,実から花の存在の推論を促すこと,さらには,生殖ルールの逆操作を自発的に行えなかった者でも実から花の存在を推測する逆向き推論を可能にすることが示された。形ルールを提示する有効性は,アブダクション形式の推論を可能にすること,また,生殖ルールよりも具体性を持つ点で学習者にとって理解しやすく使いやすいルールであることにあると考察された。

田中瑛津子
〔キーワード〕興味,ポジティブ感情,日常関連価値,理科教育,適性処遇交互作用
中学2年生を対象にした授業場面において,興味の二つの側面であるポジティブ感情と価値の認知に着目し,興味の深化を促すための介入の効果を検討した。本研究では理科の授業を扱うことから,価値の中でも,「学習内容は日常生活と関連がある」という認識である日常関連価値の認知に焦点を当てた。実験1では,授業の導入時に意外な結果が生じる実験を提示してポジティブ感情を喚起し,「これから学ぶ内容を理解すれば結果を説明できるようになる」と具体的な達成目標を示して積極的授業参加を促進した。すると,日常関連価値の一般化強調の効果が引き出されることが示された。実験2では,日常関連価値への介入には,生徒の意味理解志向による調整効果があることが示された。すなわち,日常例の提示と日常関連価値の一般化の強調だけでは意味理解志向の低い生徒には不十分であることが示された。日常場面の問題を自分で解き説明する活動を加えることで,意味理解志向の高低に関わりなく,日常関連価値の認知が効果的に高まることが示唆された。

高垣マユミ,松尾剛,丸野俊一
〔キーワード〕GR(グラウンド・ルール),教室談話,カテゴリー分析及び解釈的分析,朝の会,小学校1年生
本研究は,話し合いの基盤となるGR(グラウンド・ルール)の共有過程における教師の働きかけの特徴を,授業外の文脈である「朝の会」という視点から検討した。小学校1年生を初めて担任する教師の1学級を対象に,入学導入時期の朝の会の場面を,4月から7月の1学期間に渡って参与観察した。談話過程のカテゴリー分析及び解釈的分析の結果,教師は児童に対して,朝の会で話題とした考え方や態度を通して,自らの会話や行為を振り返る枠組みとして,「自分の行為の制御」,「他者との積極的な関わり」,「他者との関わりを通じた自他理解」の3つのGRを生成し, 運用していることが明らかにされた。その時,教師は児童の状況や反応に応じて柔軟かつ即時的に話題を転換しつつ,児童との互恵的な関係性において,3つのGRを学ぶ機会を作り出していた。その過程における教師の働きかけとして,学校生活全般にわたる児童の過去と現在の行動様式を比較したり,ラベル化したりしていた。これらの教師の働きかけは,「日常生活との関連づけ」,「話題の流動化」,「過去の記述」,「変容の感覚(正・負)の可視化」,「自己開示・感情の表出」,「行動様式のラベル化」,「思考の促し」の7つのカテゴリに分類され,話し合いの経験が十分ではない1年生の児童に対して,共有可能な経験知としてGRを学ばせていることが示唆された。

蛯名正司
〔キーワード〕高さ,平面図形,斜辺,同定方略,小学6年生
三角形や平行四辺形の面積の学習では,高さの理解が重要であるが,高さの同定を誤る児童は少なくない。そこで,本稿では高さの同定を促進するために,斜辺を用いる方略を考案し,その効果を検証した。斜辺を用いる方略とは,「図形の斜辺を見つけ,斜辺の一番上から底辺に垂直に線を引く」というものであり,この方略を用いることで,斜辺と高さを混同する誤りが抑制されることが予想された。また,斜辺を用いる方略を導入する際に,斜辺をハシゴ,底辺を地面と対応させることで,方略の理解が促進されると予想された。小学6年生を対象に,ほぼ同様の授業を2度実施した(授業1,授業2)。その結果,授業1・2の両方で高さの作図課題の正答率が上昇し,授業2では一部の求積課題の正答率も上昇した。また,授業の感想に記述された内容から,斜辺を用いる方略を使って同定することや,斜辺をハシゴ,底辺を地面と見なすことが有効であることが示唆された。一方で,授業で用いた課題との類似度が低い求積課題では,依然として「底辺×斜辺」という誤りが見られたことから,方略の教示だけでは,抽象的な高さ概念を獲得するには不十分であることが示唆された。