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佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,仮説的判断,定義ルール,大学生
ルールが教えられても課題解決に適用できないというルール学習の困難さについては,多くの先行研究で指摘されているところである。これを本研究では,自身の直観的判断を留保しルールとその操作のみに従って暫定的に判断する「仮説的判断」の不十分さゆえに生じるという学習者の思考過程の問題として捉え,その可能性について検討した。具体的には,四角形の定義ルールによる未知図形(3頂点が一直線上に並んだ特異な四角形)の判断課題をとりあげ,大学生7名を対象に行った討論記録から参加者のルール適用過程について考察した。その結果,経験による反証がなされ得ない定義ルールの場合でも,参加者は,自身の直観的判断を保持するようにルール以外の知識を持ち出しルールによる判断を拒否していたこと,また,ルールによる判断を認めたのは,ルールに直接示されていない情報や自身の知識との整合性が確認されたときであったことが明らかになった。これらの結果から,学習者にとってルールに従った仮説的判断は困難であること,ルールの学習を促すには,ルールが正しいとしたらどのようなことがみられるか検証可能な命題を導出させることが重要になることが示唆された。

佐藤誠子
〔キーワード〕授業,学習者によるまとめ,知識,抽象化,小学生
授業を創る際,教師は学習目標を設定し,学習者のもつ既有知識や事前の達成状況等を考慮して教材や教授法を選択する。では,設計された教授条件のもとで,学習者は何を理解しどのようなことを知識としてまとめるのか。また,学習目標はいかなる場合に達成されるのか。本研究では,授業において学習者自身が形成する知識の様相を明らかにし,さらに,それが後続の課題解決にどのような影響を及ぼすかを検討した。その際,具体物モデルを用いた面積の授業を取り上げ,学習者が形成した知識の様相として「授業後のまとめ」の内容に着目した。小学6年生29名を対象とした授業の分析を行った結果,①教授者側が数学的概念に焦点化したまとめを提示しても,学習者の理解は授業で扱われた具体物の現象的理解にとどまることがあり,その場合,後続の課題解決が阻害されてしまうこと,②後続の課題解決が促進されるのは,学習者自身が授業で扱った具体物の現象的理解を数学的概念に抽象化し,とりわけ数学的概念と具体物操作を関連づけて理解できたときであることが明らかになった。これらの結果から,教材に対する学習者の理解を把握し,教授法を調整する必要性について論じられた。

佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,属性ルール,カテゴリールール,推論,種子植物のルール学習
本研究は,種子植物の生殖ルール「花が咲く植物にはタネができる」の適用を促す教授法の効果について検討を行うものである。この生殖ルールはカテゴリーの包含関係を表すカテゴリールールとして捉えられるものであるが,学習者にとってルール命題の自発的な変形操作や具体的な予測の導出が困難であることが先行研究により示唆されてきた。そこで本研究では,生殖ルールに加えて「花の形が似ていれば,実やタネの形も似ている」という形ルールを提示することを提案した。形ルールは具体的な花の形と実・タネの形という属性の連合関係を表す属性ルールとして捉えられ,先のような生殖ルールによる処理の困難さを克服させることが期待された。大学生70名を対象に検討を行った結果,形ルールの追加提示は,花からタネ,実から花の存在の推論を促すこと,さらには,生殖ルールの逆操作を自発的に行えなかった者でも実から花の存在を推測する逆向き推論を可能にすることが示された。形ルールを提示する有効性は,アブダクション形式の推論を可能にすること,また,生殖ルールよりも具体性を持つ点で学習者にとって理解しやすく使いやすいルールであることにあると考察された。

佐藤誠子
〔キーワード〕面積学習,外的操作活動,公式,等周長変形,小学6年生
基本的平面図形の求積公式を学習した後の学習者でも,図形の具体的な長さの数値が与えられていない問題状況になると,公式を使えず,底辺や高さの相対的な大小から面積の大小を推論することができない者が少なくない。本稿では,数値がなくとも底辺と高さの変化から面積変化を導出できることを理解させ,面積が直交する2方向に拡がる量であることを実感させるために,等周長変形を教材として用いた授業プランを立案し授業実践を行った。授業での主要なポイントは,①等周長変形を紙上で提示するのではなく,実際の手操作として行わせること,②具体物を用いて連続的な等周長変形に伴う面積変化を実感させることであった。授業の結果,等周長変形の操作活動を通して面積変化を捉えることの面白さに言及する感想が多くみられ,具体的数値がなくとも公式を用いて面積変化を推論することの面白さを実感させることができた。しかし同時に,具体物によって示された現象的な面積の理解にとどまった学習者もみられた。具体物の操作活動によって抽象的概念を捉えさせる際,授業者側のねらいと学習者側の認識との間にずれが生じてしまう可能性があることが課題として指摘された。

佐藤誠子
〔キーワード〕具現化,面積判断,公式の操作,乗法性,大学生
相似図形の面積に関して,「図形をk倍に拡大すると面積はk2倍になる」というルール(2乗倍ルール)が存在する。それは,「縦×横=面積」という公式の変数操作により導出されるものであるが,基本的な幾何的図形の面積学習後でも2乗倍ルールを適用した解決がなされにくいことが先行研究により示されている。本研究では,そのような公式変数の操作を具体的な物としての操作に変換して教示すること(具現化)が適切な面積判断を促進させるか否かについて,大学生を対象に検討した。具体的には,拡大前後の図形に丸粒シールを敷きつめ,各図形に敷きつめられた粒の個数を比較させることにより面積変化を捉えさせた。短大生28名を対象に検証した結果,適切判断は図形の拡大場面の一部において促進されたが,長さの数値を示した拡大場面や図形の縮小場面では必ずしもそうではなかった。そしてこの課題成績の違いは,事前の面積判断で定量的側面への着目にとどまったか,定性的側面にまで着目しえたかに依存することが示された。ルールに依拠した適切判断のためには,具現化による定量的な面積理解を定性的な変数間関係として捉えなおす段階が必要となることが示唆された。

佐藤誠子
〔キーワード〕面積大小判断,等周長変形課題,保存概念,小学6年生
<p>底辺を固定したまま長方形枠を平行四辺形に変形させたときの面積の変化を問う「等周長変形課題」は,求積公式を適用することで解決可能であるにも関わらず,「面積同じ」と判断する誤りが多くみられる。このことに関して,等周長変形課題では求積公式に関する知識よりも保存概念の方が活性化されやすく,それが面積判断に不適切に適用されるためであると想定した。そうした場合,公式を適用した問題解決が可能になるには,概念の不適切な適用を抑制させる必要があると思われる。そこで,本研究では,面積学習後の小学6年生を対象に,等周長変形課題の3次元化による面積変化の提示が,保存概念の不適切な適用を抑制し,結宋的に公式に依拠した正しい判断へと導くかどうかを検証した。その結果,面積変化を提示された群では等周長変形課題の正答率が上昇し,事前から事後にかけて誤答から正答に変容した老が多いことが示された。しかし一方,正答率が低下した問題もみられた。等周長変形の面積変化の提示の際,学習者は高さの変化よりも形の変化に着目し,「長方形から平行四辺形に変わったら面積は小さくなる」という知識を形成している可能性があることが示唆された。