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佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,仮説的判断,定義ルール,大学生
ルールが教えられても課題解決に適用できないというルール学習の困難さについては,多くの先行研究で指摘されているところである。これを本研究では,自身の直観的判断を留保しルールとその操作のみに従って暫定的に判断する「仮説的判断」の不十分さゆえに生じるという学習者の思考過程の問題として捉え,その可能性について検討した。具体的には,四角形の定義ルールによる未知図形(3頂点が一直線上に並んだ特異な四角形)の判断課題をとりあげ,大学生7名を対象に行った討論記録から参加者のルール適用過程について考察した。その結果,経験による反証がなされ得ない定義ルールの場合でも,参加者は,自身の直観的判断を保持するようにルール以外の知識を持ち出しルールによる判断を拒否していたこと,また,ルールによる判断を認めたのは,ルールに直接示されていない情報や自身の知識との整合性が確認されたときであったことが明らかになった。これらの結果から,学習者にとってルールに従った仮説的判断は困難であること,ルールの学習を促すには,ルールが正しいとしたらどのようなことがみられるか検証可能な命題を導出させることが重要になることが示唆された。

麻柄啓一,進藤聡彦
〔キーワード〕 操作,読解,誤認識,歴史学習,大学生
本研究では「徳川幕府は全国の大名から年貢を取っていた」という誤った認識 (麻柄,1993)を取り上げる。高校の教科書では, 例外として一定期間「上げ米 (大名がその石高の1%を徳川家に差し出す) 」が行われたことが記述されている。ここで, 「○○の期間には××が行われた 」 (命題a) に接したとき,これを「○○ 以外の期 間には××は行われなかった」という形(命題b)に論理変換できれば,先の誤りは修正される可能性がある。実験1では大学生62名を対象にこの関連を検討したところ, 年貢の行方を問う問題 (標的問題) での正答者は誤答者より, 命題の変換に優れている傾向が示唆された。実験2では大学生34名を対象に, 論理変換を援助することにより誤った認識の修正が図られるか否かを検討した。その結果, 援助が誤った認識の修正を促進する効果をもつことが確かめられた。知識表象を変形することは操作と呼ばれるが (工藤,2010),上記の論理変換も操作の1つであり,操作の成否が誤った認識の修正に関わることを示すものとなった。

大道一弘
〔キーワード〕等周長問題,高さ判断,視覚的判断,大学生
本論文の目的は,等周長問題(長方形の底辺を固定し,各辺の長さを同じに保ちつつ平行四辺形に変形した場合に,面積がどうなるかを問う課題)の解決における高さ判断の役割について検討することであった。従来,等周長問題においては,多くの者に誤りが見られることが指摘されてきたものの,高さ判断には問題がないものと仮定されてきた。しかし,大学生49名を対象とした3つの課題からなる実験の結果,(1)実験参加者全体の57%に高さ判断の誤りが見られること,(2)そのような者には視覚的判断といった直感的な判断を行っている者が多いこと,(3)面積,高さの両方に誤答した者でも,54%は補助線による高さの明確化によって面積判断も改善されること,(4)そのような者の31%は,補助線のない元の問題では面積,高さともに誤った判断に戻ってしまうことが示された。これらの結果から,等周長問題における高さ判断は多くの参加者にとって容易ではなく,高さ判断の誤りは等周長問題の誤りをもたらす要因の1つであると考察された。

宮田佳緒里
〔キーワード〕誤認識,説明文と図からの学習,力の分解,大学生
変数間の共変関係を可視化する図の呈示は,関係性の理解を促進することが知られている。特に,教授内容に関する知識の少ない者に対して,図の呈示は効果を持つ。一方,教授内容に関する誤認識を有する者に対しては,図の呈示による教授活動が必ずしも効果を持たないとの知見もある。そこで本稿では,学習者の有する誤認識が説明文と図からの情報の読み取りにどのように影響するかを検討した。大学生134名を対象に,教授内容である力の分解に関する認識調査,及び説明文と図による力の分解の教授活動を行った。その結果,誤認識所有者は,呈示された分力の値を誤りと判断した者の比率が高く,誤認識と一致しない情報を妥当性が低いとの理由で受容しない傾向が示された。このことから,変数間の共変関係に関する学習者の認識は説明文と図から読み取られた情報の妥当性を吟味するために用いられ,認識と一致しない情報の受容に妨害的に作用すると推察された。

 

宮田佳緒里
〔キーワード〕ルール学習,構成要素,力のつりあい,大学生
力学分野の問題解決の先行研究より,学習者が力を正しく認知できないという知見が得られている。これに基づき,本研究では大学生84名を対象に「行為者」と「物体の運動」という構成要素に基づく力の認知が,2力のつりあいルールの事例での2力認知を妨害するかを検討した。その結果,2力非明示問題において,行為者が存在する事例,物体が運動する事例での2力認知率が高かったことから,学習者の力の認知には,事例における行為者の存在及び物体の運動という2要因の関与が示唆された。また,ルールの所有状況と2力認知の有無との間に有意な連関が見られなかったことから,2力のつりあいルール所有者も非所有者と同様に,行為者と物体の運動に基づいて力を認知しており,ルールを適用できる事例が限定的になっていることが明らかになった。以上の知見から,行為者と物体の運動に基づいて力を認知することが,事例における力の認知に制約を与え,結果としてルールの適用が阻害されると推察された。

佐藤誠子
〔キーワード〕具現化,面積判断,公式の操作,乗法性,大学生
相似図形の面積に関して,「図形をk倍に拡大すると面積はk2倍になる」というルール(2乗倍ルール)が存在する。それは,「縦×横=面積」という公式の変数操作により導出されるものであるが,基本的な幾何的図形の面積学習後でも2乗倍ルールを適用した解決がなされにくいことが先行研究により示されている。本研究では,そのような公式変数の操作を具体的な物としての操作に変換して教示すること(具現化)が適切な面積判断を促進させるか否かについて,大学生を対象に検討した。具体的には,拡大前後の図形に丸粒シールを敷きつめ,各図形に敷きつめられた粒の個数を比較させることにより面積変化を捉えさせた。短大生28名を対象に検証した結果,適切判断は図形の拡大場面の一部において促進されたが,長さの数値を示した拡大場面や図形の縮小場面では必ずしもそうではなかった。そしてこの課題成績の違いは,事前の面積判断で定量的側面への着目にとどまったか,定性的側面にまで着目しえたかに依存することが示された。ルールに依拠した適切判断のためには,具現化による定量的な面積理解を定性的な変数間関係として捉えなおす段階が必要となることが示唆された。

伏見陽児,立木徹
〔キーワード〕科学的知識の学習,情感の生起,大学生
本研究の目的は「科学的知識の学習は情感の生起に関係する」という考えを実証することにある。実験1では大学生40人を対象にして「人間の背骨」の特徴を記述した読み物教材を読ませた。その結果,当該学習内容をより良く学習した者の方が,そうではなかった者に比べ,人間の背骨の仕組みに「すごさ」「すばらしさ」などの情感をより多く生起させた。実験2では大学生80人を対象に「親潮と黒潮の特徴」という内容が「気体の溶解度」と関連づけられた場合の情感の生起について検討した。実験の結果,2つが関連づけられると,関連づけられなかった場合に比べ,自然の仕組みのすばらしさや美しさに強い情感を生起させる者が多く生じた。

有竹勇人,蒔田俊介
〔キーワード〕誤った知識,概念変化,種子植物,分類枠組み,大学生
チューリップは普通球根を植えることが多いため,チューリップにたねはできないと考える学習者が多い。麻柄(1990)はたねができるにもかかわらず球根を植える理由を説明することで,このような誤概念が修正されやすくなることを明らかにした。しかしその効果はチューリップに限定的であり,ヒヤシンスやジャガイモに関してはたねができないという判断が残った。本研究では麻柄(1990)の説明に加え,植物は種子で増える植物(種子植物)と,胞子で増える植物(胞子植物)の2種類からなるという分類枠組みを提示することの効果を検討した。その結果,チューリップに限定されず,ヒヤシンスやジャガイモ等にもたねができるという判断が大幅に増えた。「分類枠組み」と「チューリップではたねができるにもかかわらず球根を植える理由」の説明がそれぞれ学習者の思考プロセスをどう援助しているかを考察した。

立木徹,小石川秀一,伏見陽児,福山晶子,岩崎哲郎,菊池明
〔キーワード〕製作活動,ティーチングアシスタント,とらえ方の変容,大学生,学外実習
本報告は,ティーチングアシスタントという形式で大学生に行わせた学外実習体験(子どもたちが製作活動を行う場面での支援)が,どのような教育効果を生み出すのかを検討したものである。主な結果は以下の通りであった。(1)実習は参加学生にとって十分満足できるものであった。(2)大半の学生が,製作活動に対する子どもの集中度や工夫する様子,完成した際の彼らの喜びや満足感,さらには道具の使用状況に着目し得た。(3)「小学校における製作活動」に対する学生のイメージがより肯定的な方向に変化した。(4)「小学校における製作活動」は,道具使用に熟達する,科学的原理を理解する,美を追求する,という側面に教育的に有効であると,学生はより強く思うようになった。さらに,(5)「ものを手作りすること」一般に対して肯定的にとらえるようになった。