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工藤与志文
〔キーワード〕理科実験,観察の理論負荷性,重さの保存性,誤ルール,小学生
本論文では,小3理科授業において,「塩は水にとけない」という事実誤認が生じた事例を報告する。当該授業では,重さの保存性に関するルール(出入りがなければ重さは変わらない)の理解を目標の一つとしていた。一連の理科実験では,発泡入浴剤を水にとかして,泡(気体)の発生による重さの減少を観察させた。さらに,塩を水にとかす実験で,とけても物の重さは変わらないことを観察させた。しかしながら一部の児童は,入浴剤がとけたので重さが減った,重さが変わらないのだから食塩は水にとけないと結論づけてしまった。これらの事実は「観察の理論負荷性」の観点から考察され,「とけると重さが減少する」という誤ルールを持った児童と授業者は互いに異なった観察行為を実践していた可能性が示された。

佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,仮説的判断,定義ルール,大学生
ルールが教えられても課題解決に適用できないというルール学習の困難さについては,多くの先行研究で指摘されているところである。これを本研究では,自身の直観的判断を留保しルールとその操作のみに従って暫定的に判断する「仮説的判断」の不十分さゆえに生じるという学習者の思考過程の問題として捉え,その可能性について検討した。具体的には,四角形の定義ルールによる未知図形(3頂点が一直線上に並んだ特異な四角形)の判断課題をとりあげ,大学生7名を対象に行った討論記録から参加者のルール適用過程について考察した。その結果,経験による反証がなされ得ない定義ルールの場合でも,参加者は,自身の直観的判断を保持するようにルール以外の知識を持ち出しルールによる判断を拒否していたこと,また,ルールによる判断を認めたのは,ルールに直接示されていない情報や自身の知識との整合性が確認されたときであったことが明らかになった。これらの結果から,学習者にとってルールに従った仮説的判断は困難であること,ルールの学習を促すには,ルールが正しいとしたらどのようなことがみられるか検証可能な命題を導出させることが重要になることが示唆された。

工藤与志文
〔キーワード〕代理的知識操作,発問,教材解釈,理科授業,小学生
知識操作とは,学習者が課題解決のために知識表象を変形操作する心的活動のことである。本研究の目的は,小学校の理科授業における授業者と学習者の相互交渉過程を知識操作の観点から分析することであった。分析においては特に,学習者が行うべき知識操作の一部を教授者が代理的におこなう「代理的知識操作」に焦点を当てた。その結果,(1)学習上望ましい知識操作を自発的に行う学習者が少ないこと(2)発問の形式での代理的知識操作が学習を促進する効果を持つこと(3)授業者にとって代理的知識操作の重要性は必ずしも自明ではないことが示された。以上の結果から,代理的知識操作が学習者にとって補償的な機能を持つこと,および代理的知識操作の実行は授業者の教材解釈に大きく依存することが示唆された。

佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,属性ルール,カテゴリールール,推論,種子植物のルール学習
本研究は,種子植物の生殖ルール「花が咲く植物にはタネができる」の適用を促す教授法の効果について検討を行うものである。この生殖ルールはカテゴリーの包含関係を表すカテゴリールールとして捉えられるものであるが,学習者にとってルール命題の自発的な変形操作や具体的な予測の導出が困難であることが先行研究により示唆されてきた。そこで本研究では,生殖ルールに加えて「花の形が似ていれば,実やタネの形も似ている」という形ルールを提示することを提案した。形ルールは具体的な花の形と実・タネの形という属性の連合関係を表す属性ルールとして捉えられ,先のような生殖ルールによる処理の困難さを克服させることが期待された。大学生70名を対象に検討を行った結果,形ルールの追加提示は,花からタネ,実から花の存在の推論を促すこと,さらには,生殖ルールの逆操作を自発的に行えなかった者でも実から花の存在を推測する逆向き推論を可能にすることが示された。形ルールを提示する有効性は,アブダクション形式の推論を可能にすること,また,生殖ルールよりも具体性を持つ点で学習者にとって理解しやすく使いやすいルールであることにあると考察された。

工藤与志文,小石川秀一
〔キーワード〕理科授業,電流の学習,認識のずれ,小学生,教師
本論文は,小5「電流が生み出す力」の授業実践における子どもの認識とそれに関する教師の認識とのずれを示す事例の報告である。これらの事例では,事実認識
とコトバの意味に関して,教師の想定していた子どもの認識と実際の子どもの認識が大きく食い違っていた。4つの事例の分析を経て,以下の点が論じられた。 ①事例で示された認識のずれは,教師と子どものやりとりの中で初めて顕在化するような微妙なものであったが,授業目標の実現に大きな影響を与えるもので
あった。②子どもの思考は具体的なイメージにしばられる傾向があり,これが認識のずれをもたらす要因の一つであった。また,コトバの操作だけでイメージを 変化させるのは困難であった。③子どもたちに抽象概念を理解させるために,具体的な現象に置き換えて教えることは重要だが,それだけでは,個別の現象の学
習にとどまってしまう可能性が高いことが示された。この点を克服するためには,抽象概念と個別的現象を結びつけるはたらきをもつ経験が重要である。

工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,操作的思考,変数操作,関係操作,抽象度操作
近年,学習者によるルール命題の心的操作がルール学習に影響するという研究報告が増加している。本論文では,操作的思考の生起がルール学習においてきわめて重要であること,そして,これまでの研究において操作的思考が注目されてこなかった理由の1つに,研究者側のルール学習観が限定的であったことが関係していることを論じた。さらに,操作を変数操作,関係操作,抽象度操作の3つに分類する枠組みを提案した。最後に,操作的思考とルール学習に関する最近の研究を概観し,今後の研究の方向性について示唆をおこなった。

工藤与志文
〔キーワード〕誤前提課題,教授学習研究,知識評価法,知識水準,知識の制御的適用
「誤前提課題」とは,学習材料の内容と矛盾する誤った前提にもとづく質問に対して答えるよう,学習者に求める形式の課題である。この課題に正答するためには,学習者は質問に直接答えるのではなく,質問の前提が誤りであることを指摘できなければならない。これまでいくつかの教授学習実験において,教授効果の評価のために,このタイプの課題が用いられている。本論文の目的は誤前提課題を用いた6つの研究の結果を概観することであった。検討の結果,誤前提課題は再生課題や転移課題よりも解決が困難であり,教授変数,特に知識の関連づけを促進する教授の効果を最も鋭敏に検出できることがわかった。上記のことから,(1)誤前提課題は,再生課題や転移課題とは異なる知識評価法として利用可能であること(2〉誤前提課題に正答できた学習者は,獲得した知識を推論過程の制御に適用できる知識水準にあること(3)知識の制御的適用を促進するには,知識の相互関連性の教授が有効であることが示唆された。最後に,今後の研究や教育実践に与える寄与について論じられた。

工藤与志文,宇野忍,白井秀明,荒井龍弥
小学校理科には、タネの発芽、花、光合成を学習内容とする単元がある。本研究では、単元の相互の関連づけを促進する教授プログラムを開発し、授業を行って、その有効性を検討した。すなわち、小学校6年生女子30名を対象に、光合成の授業後に、テキスト「植物の一生」を用いた授業を行った。このテキストは、植物は生き残るためにどのような戦略をとるかという文脈を利用して、学習者が植物のライフサイクルに各単元の学習内容を関連づけ、植物の形態や生態の持つ機能的意味を見いだせるように構成された。タネの発芽、花概念の内包、外延、光合成に関するテストが事前・事後テスト及び2回の遅延テストとして、計6回実施され、以下のような結果が得られた。1)テキストの有効性は4課題のうち2課題で確認された。2)テキストによる授業は、授業後でも目標を達成できなかった学習者層に特に有効であった。これらの結果から、教授プログラムの有効性が示された。

工藤与志文,宇野忍,白井秀明,荒井龍弥
本研究は、1)小学校理科5,6年の植物単元を対象に、教授者が意図的に関連づけを行わない条件下での単元学習効果の維持・定着の実態を明らかにするとともに、2)自発的関連づけの程度を探るために行われた。小学生33名の同一学習者群を対象に、5年時の植物の発芽および花概念、小学校6年時の光合成概念に関して、授業および同一課題による事前、直後、遅延テストを行い、学習者の理解の変化を縦断的に調査した。その結果、以下の結果が得られた。1)全体的傾向として授業による学習効果は高くなく、高い学習効果を持った学習領域でも、学習効果は時間的経過と共に失われることが多い。2)光合成概念の授業前後の花概念テスト成績の「復帰」を自発的関連づけの兆候と想定すると、a)復帰を示した学習者は極めて少ない。b)復帰を示した学習者は花概念の理解度が高い傾向にあった。c)復帰を示した学習者は光合成概念の理解度が高い傾向にあった。以上から、学習者は各単元の学習内容を自発的に関連づけることができず、関連づけの援助によって彼らの理解を促進できる可能性が示された。